数日後、
妻から新しい話が出た。
それは、
これまでとは少し違う内容だった。
「公正証書を作ることにしたから」
その言葉の意味を、
このときの私は、
まだよく理解できていなかった。
ただ、
もう一段踏み込んだ現実が
そこにあることだけは感じていた。
離婚がより確実な形になることは、
彼女との関係にとっては
望ましいものだとそのときは思っていた。
数日間の沈黙
数日間、
妻は離婚の話について何も言わなかった。
あの日のやり取りで、
すべてが動き出したはずなのに、
そのあとの時間は、不自然なほど静かだった。
何も起きていないわけではない。
むしろ、
何かが進んでいるような気配だけがあった。
ただ、
それが何なのかは分からなかった。
言葉がない分、
余計にいろいろなことを考えてしまう時間だった。
このままどうなるのか。
何が決まっていくのか。
はっきりとしたものは何もないまま、
落ち着かない時間だけが続いていた。
突然出てきた公正証書
そして数日後、
妻から新しい話が出た。
「公正証書を作ることにしたから」
「このままなあなあな関係でいて、
あとから覆されても困るから。
とっとと離婚を形にしたい」
離婚の話は進んでいるはずなのに、
どこかまだ曖昧さが残っていた。
その状態を、
きちんと形にしておきたいという意図だったのだと思う。
私が彼女に振られて、
やっぱり戻ってきた、
なかったことにしよう、
そういう展開にならないように。
そういう意味も、
含まれていたのだと思う。
妻はもともと、
物事を先に進めるのが早い人だった。
私を引き止められないのであれば、
早く離婚に向けての形を整えて、
次のことに進みたい。
受験のことも含めて、
そちらに集中したいという考えだったのだと思う。
妻らしい行動力と見切りの速さを感じた。
ただ、
そこからのスピードに、
私はついていけていなかった。
よく分からないまま受け止める
正直に言うと、
公正証書というものが何なのか、
このときの私はほとんど分かっていなかった。
言葉として聞いたことがあるかどうか、
その程度の認識だったと思う。
どんな内容で、
どれくらいの効力があるのか、
そういったことも含めて、
具体的なイメージはまったく持てていなかった。
ただ、
離婚やその後についてのことを、
正式な形として残すものなのだろう、
というくらいの理解だった。
離婚届を出すのは、
まだ先の話だった。
それでも、
こうして形として決まっていけば、
離婚が現実として進んでいることを、
はっきりと示すことができる。
そうなれば、
彼女にも、
きちんと伝えられると思った。
離婚が決まったという事実を、
曖昧なままではなく、
形として説明できる。
それは、
彼女との関係にとっては、
プラスになるものだと、
そのときの私は考えていた。
このあと、
その内容が
彼女との関係の中で
問題になることもあったが、
そのときはまだ、
そこまで考えが及んでいなかった。
弁護士が入り、すでに進んでいた準備
その日のすべてが終わったあと、
深夜になって、
公正証書の内容を見せられた。
「こういう内容だから」
先日、彼女に想いを伝えたあとの深夜、
その日は、
離婚後の条件についてはまた話し合おうという形で終わっていた。
けれど、
実際には話し合いはなく、
提示されたものは、
すでにある程度まとまっていた。
何も進んでいないように見えていた時間の中で、実際には、
すべてが動いていた。
妻の行動の速さにもだが、
その着眼点に驚いた。
私は公正証書というもの自体、
ほとんど知らなかった。
それなのに、
そこに目を向けて、
すぐに形にしようとしている。
弁護士に依頼したのが先なのか、
公正証書の話から調べて進めたのかは分からない。
ただ、
そういうところに着目して、
一気に進めていく判断に、
驚いていた。
自分がただ知らなかっただけなのかもしれないが、その差を、
はっきりと感じていた。
同時に、
完全に妻のペースになっていると、
はっきりと感じていた。
決断を迫られる
そして、
妻は言った。
「明日までに内容確認して、確定して」
その一言が、
一番驚いた。
大事な内容のはずなのに、
なぜ明日なのか、
理解が追いつかなかった。
「弁護士に依頼してる日数的に、
明日が締め切りだから」
「清書してもらわないといけないことも考えると、期限は明日の夜までね」
そう続けて言われた。
「お金払ってるの私だから」
その言葉も、
はっきりと覚えている。
急に現実を突きつけられたような感覚だった。
考える時間はほとんどない。
そういう状況だった。
その場で判断できるような内容ではないはずなのに、決めることを求められていた。
焦りと違和感だけが、
強く残っていた。
焦りと違和感
早く離婚を形にしたいという気持ちはあった。
このまま曖昧なままではなく、
はっきりさせたいという思いもあった。
それは、
彼女との関係を考えたときにも、
必要なことだと思っていた。
ちゃんと話が現実的に進んでいることを、
早く伝えたかった。
ただ、
その一方で、
理解できていないまま進んでいくことへの怖さもあった。
おそらく妻は、
弁護士と時間をかけて、
この内容を決めてきたのだと思う。
それに対して、
私に与えられたのは、
明日までという時間だった。
その差に、
強い違和感があった。
当時の私は、
精神的にも余裕がある状態ではなかった。
判断力が十分だったかと言われると、
正直自信はない。
それでも、
明日までに決めなければならない。
内容を十分に理解できていないまま、
決めることを求められている。
何か自分に不利な内容になっていないか。
焦りと不安が、
同時に押し寄せてきていた。
弁護士の友人に頼る
一人で判断できる内容ではないと思った。
それまで、
離婚のことも、
彼女のことも、
誰にも話してこなかった。
それでもこのときは、
誰かに頼るしかないと感じた。
仲のいい友人に、
初めて連絡をした。
長文で、
これまでの経緯を隠さず、
すべて打ち明けた。
結婚を祝ってくれていた友人だった。
こうなってしまったことに対して、
申し訳ない気持ちも書いた。
その友人は弁護士をしていた。
離婚は専門ではなかったが、
それでも、
話を聞いてもらえるだけで、
意味があると思った。
翌朝、
連絡が返ってきた。
内容に驚いてはいたが、
その日の夕方までに、
一度精査してくれることになった。
妻は弁護士に依頼して、この内容を作っている。
だからこそ、
私側にも法的知見のある意見が欲しかった。
少しだけ、
気持ちが落ち着いた。
将来に関わる話だった。
そのために、
彼女にも内容を見せることにした。
公正証書の内容については、
次の記事で書こうと思う。
離婚の記録|実体験シリーズ
このブログでは、離婚に至るまでの経緯と、その後の出来事を実体験として記録しています。
時系列で読めるようにシリーズとしてまとめています。
① 離婚に至るまでの経緯
② 離婚を躊躇した理由
③ 離婚を決断した日
④ 離婚が決まっても家を出られなかった理由
⑤ 受験という現実
⑥ 終わると分かっていた家族の日常
⑦ 面接をこなすたび削れていく気持ち
⑧ 子どもと過ごす時間の重さ
⑨ 同じ家にいる他人
⑩生きる気力を失った私が、カウンセリングで出した結論
⑪離婚を切り出した日|決断のあとに起きた現実
⑫彼女に離婚を伝え、想いを告げた日
⑬帰宅後に待っていた現実と妻への報告
⑭公正証書の話が出た日(この記事)


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